田原町の仏飯・カナイユで昼のあと図書館行くも座れず。区民のあかしを即示せるものをまだ持ってないんだ私。退散して喫茶店。宇野浩二『震災文学』西條八十『唄の自叙伝』室生犀星『日録』など。朝の雨は昼にはやんだが今また降っている。二百十日ころのこと。
自分の寝ているござ一枚下の大地が妙なうなり声と共に震動しているのを感じることは、理屈なく物凄かった。 宇野浩二
松坂屋や岩倉学校が大火の煙を背景にして、どっしり立っている光景は何ともいえぬ心強さを感じさせた位である。 宇野
山の群衆はこの一管のハーモニカの音によって、慰められ、心をやわらげられ、くつろぎ、絶望の裡に一点の希望を与えられた。 西條八十
こんな安っぽいメロディーで、これだけの人が楽しむ。俗曲もまたいいもんだ。 西條
満山の避難民煮え返るごとし 室生犀星
四、五人の消防夫産婦と子どもとをかこみ保護して呉れる。しかもこの非常時にさへ産婦のそばに人波の押し寄せることを食ひ止めくれしため、やうやく窒息をまぬがれる。田端へ着き産婦やうやく疲る。生後八日目の子供は上野の火ひあひ、赤羽まで行きしが其疲れもなくゆめうつつに微笑めり 室生
世に鬼はなしの言葉やうやく身に沁む 室生