「ヘルペス コルプス」四釜裕子
エレンダニカとカンガルーアイビーを刈り込んだらさきっぽから樹液
(春先に小川でみたのはとがった葉っぱのさきに凍った雫)
乾いた部屋でさばいていたコピー用紙で切った指のさきっぽから血
(酔ってパンナイフで切った親指を縫ったのは七針)
いらっしゃいとなめた
寒く乾く冬に風邪をひいて口唇にぬくみ
ヘルペス、水泡、いらっしゃい
「アクチビア」や「ヘルペシア」
アシクロビルにマクロゴール
喰ったりしゃべったり動きまくる筋肉を覆う膜を速やかに再生しなくちゃいけない
Herpes Simplex Virus 1 (単純ヘルペスウイルス1型)はしっとりと殖え
まもなくの出発に期待で胸をふくらませ
ドームから上下三つの穴を確認している
年中動くかっこうの場所
のはずが!
ヘルペス! コルプス! パスツール!
穴たちがまだ伸縮を続けそうであることを知り
長い管を戻りいつもの場所で眠りにつく
喰いたまえ
しゃべりたまえ
ただひとつのそんな夢をみつづけるひとつずつの夜
わたしは開かずの扉を作ることができて
みたことのない誰かの安寧の住処である
ヘルペス、コルプス、パスツール!
またおいで
居るのだから在るのだから
口唇ヘルペス
幼児期などに感染した単純ヘルペスウイルス1型が三叉神経節に潜伏し、かぜ、疲労、紫外線などをきっかけに再活性化して症状があらわれる。
「gui」83 vol.30 April 2008 初出