「キが売りのニガウリ」四釜裕子
小さなたくさんの黄色い色の
わりに強い匂いの雄花と雌花に
ハチやチョウがとびかうさなか
左右のロープにひげを伸ばして
キ、キ、
キの字を描くニガウリ
編み上げた明るい緑色のカーテンは太陽を遮り
几帳面な筆跡と旺盛な編みっぷりに毎朝みとれていたのだよ
ようやく育った初ニガウリが
苦くない
なぜかしら
先生に聞くと
「穫りたてって苦くないの」
そうなんだ
新鮮ってすごいな
次の日
二本目のニガウリは苦く
三本目も四本目も苦かった
ニガウリは苦いが
もはや穫ったばかりのニガウリが苦くてはいけない
悪いのは水か土か太陽か
あれやこれやの付焼刃
五本、六本
やっぱり苦い
なぜかしら
本を開くと
「新鮮なものほど苦みは少ない」
まちがいならば
にぎりつぶしてしまわねばならない
(先生なぜって、言いふらしてしまったの)
ニガウリの売りの苦みが
妙ににがい
七本目
黄色くなった
八本目、九本目
もう穫らない
実は熟して重しとなって編み目を広げ
光を少し呼び込んで
まもなくオレンジ色になり
パカッと放屁
真っ赤な種
「ここまで待てと言っただろ」
鳥や私に目くばせしてね
とろりと赤いとろりと甘い
おい、いいぞ、初うんち
用意万端皆を巻き込み
さぞや気持ちよかろうよ
「gui」82 vol.29 December 2007 初出