中所宜夫能の会による宮沢賢治作品をもとにした新作能を国立能楽堂で。中所さんが「雨ニモ負ケズ」に謡いの節付けをして六年、それをもとにして新作能としてこれまで「能楽らいぶ」というかたちで上演。宮沢賢治の童話「ひかりの素足」(全文は
青空文庫に)のストーリーを中心に、地謡にはさまざまな作品の言葉が歌われている。
能のはじまりは。まず中所さんって顔がものすごく小さいな。そして「ダダダダダスコダダ」にいきなり笑うが、すぐ耳慣れて可笑しみはなくなる。鬼剣舞の激しい動きだが雲の上でなされるがごとく軽やかに中所さんは舞う。金色の髪の毛や青い目の人よりはこういう動きができそうな部類に入れてもらえるはずのわたし!と想像しただけでこそばゆくなるほど美しい。少年はその夜、涙を光らせたようにみえた。
場面変わって天上、ふたりの童子があらわれる。独特の中華的衣装とでもいおうか、能の動きが突如かいまみえて楽しいが、扇の出し入れは不可欠だからと開けられた穴が動作の合間にみえたりするのが残念。そして山人は光の素足に変身してやってきます。なんという美しい衣装に面! 重力のないところで光を扇に集めて眺め万人に捧げようとしているのか、なんてザワッと美しく豊かなこと。真っ白な雪を扇にのせて遠く火星だか木星だか土星だかまでその目線で光を届けようとするかのような、それを意志と呼んでみたくなる。終えてたたずむ姿も伸びて伸びて天にゆきそうであった。
・舞囃子『山姥』
シテ観世喜之
笛一噌庸二 小鼓坂田正博 大鼓國川 純
地謡津村禮次郎 奥川恒治 古川充 坂真太郎
・狂言語り童話『ひかりの素足』より
山本則重 山本則秀
・能『光の素足』
山人/光の素足 鈴木啓吾 少年一郎中所宜夫
光の素足の使い山本則重、山本則秀
笛一噌庸二 小鼓 坂田正博 大鼓國川 純
後見津村禮次郎 小島英明
地謡観世喜正 遠藤和久 奥川恒治 遠藤喜久 古川充 佐久間二郎 坂真太郎 桑田貴志
関連したイベントとして、 「新作能の流れ」 西野春雄(法政大学教授・能楽評論家)×中所宜夫(観世流能楽師)、映画「面打ち」上映後対談「受け継がれる伝統」 高橋世織(東京工業大学特任教授・文学評論家)×三宅流(映画監督)、「能楽師が語る能の魅力・能舞台への誘い」 中所宜夫(観世流能楽師)×高橋世織(東京工業大学特任教授・文学評論家)などが終了している。