2050年代のパリが舞台で監督は1970年代生まれくらいですか。お尻の上までスリットが入ったタイトスカートをはくお姉さんが煙草ぷかぷか、下まつげの長い田宮二郎みたいな刑事はものすごく強い、オフィーリアの絵と大仏の頭を飾るグローバル企業の副社長、日本人といえば「ナカタ」、「二度とうそはつかないで」とか「戻ってこなかったら、殺すわよ」、不老不死……内容はなにもかも、作り手の実感からくる未来像ではなく、監督本人が憧れの作品名をあげていることからも確信犯であることはわかるが、従って彼より年上のわたしたちにはみじんの未来も示されず、そんなわけで全くクールではなく、だがときに土曜ワイド劇場を彷彿とさせるようなカット割りが積極的に可笑しいので笑うがカチです。だが技術的なところは、いきなり白黒のいわば切り絵のような映像が続き音もドカーンボカーンでちょっとつらいが、雨、しずく、肌や路上やガラスへのはねかえり、水たまり、雪、霧など水まわりの描写や写真の燃え方などのディテールが圧巻、もしかしたらそういうプラグインがあるのか知らぬが、それにドクター・ナカタの凹凸のない表情、したがってこの作品の中では白黒がはっきりしないからゆっくりみられてよかった。情緒的な表現はぐっとくるしパリの街並や地下の実写に付加するあたりはうまいのに、最大のウリであるところの近未来のハードの部分がものすごく弱いの。それは彼ら世代の特徴かもしれないがむしろ、未来は必ずあるのだから常に描けると思ってきたSFの限界でありましょう。99%がモノクロでわずか1%に与えた色の効果がはえないのも、可笑しい。とにかく製作にはものすごい手間暇が費やされたはず。
『月世界旅行』も『惑星Xから来た男』も『博士の異常な愛情』も『アルファヴィル』も『華氏451』も『2001年宇宙の旅』も『地球に落ちてきた男』も『遊星からの物体X』も『砂の惑星』も『1984』も『メトロポリス』も『ティコ・ムーン』も。みんな、可笑しいものね。妄想が起源なんだからあたり前か。その傾向に『ルネッサンス』が、継がれることになるのかどうか。
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