近所にガラス屋があって、年寄り(たぶん)の犬が居ます。だいたいいつも丸くなって床に座り、通り過ぎるわたしらを上目遣いに眺める。その態度はしかし卑屈ではなくかといってこびるでもなく、こらちょっとは愛想したまえと思うがなかなかよいスタンスを示してにくい。
普段歩かない時間に前を通ったら、ガラス屋のおばちゃんが犬と散歩して帰ってきた。立ってるところを見たことなかったし、まして快活に歩く姿など想像したこともなかったので驚いた。わたしは太郎と呼ぶ、太郎、よしよし。
そのガラス屋はしかし、にっぽんの心の演歌大スターのポスターを貼ったり、♥型に抜いたガラスに新婚のあなたにとタグをつけたり、ザリガニを水槽にいれて軒先に出して気紛れに値札を貼るという店なので要注意なのですが、なんとこの日は落とし物のお知らせを気をきかせてあっぴーるしたのでしょうか、よく磨いたガラスの上に、二つ鍵がついたキーフォルダーと、ロレックスの時計をモノクロコピーして切り抜いたものが並べて置いてあった。やることなすこと要注意の風情を醸す徹底がすばらしい。