スイスのエメンタール地方の小さな村で日用雑貨店を営む夫に先立たれたマルタ、80歳。民族衣装をまとい夫の写真を胸に抱き、もういいの、夫のところにいかせてと眠りにつく日々。アップルパイを食べながらのカードゲームで友人たちが気遣う。仲がよくてそしてそれぞれ内緒もある。マルタの決意をきっかけに「村」というザルの中で大きさの違う球がゆすられて、飛び出たり沈んだり浮いたり。最後にザルはパッチワークと刺繍で彩られた村の旗にくるまれるわけです。
息子は牧師。雑貨店はやめて教会の勉強会に使わせてくれとマルタに申し出るが、それが不倫の逃げ道であることを知ったマルタは何も言わず拒否します。商品である下着が捨てられたらあとで拾うし、鶏の糞をまかれたらまいた相手の晴れ舞台に出かけて返す。騒がない余裕がユーモアをうむのでしょう。
小さな村。どこの子もうちの子でみんな生まれたときから知っていて愛も憎も遠慮なし——思い当たるわ。気づいたら周りの大人がみんな自分のことをなにもかも知っていて、うるさいというかこわいというか勝手にやってというか。今にすればありがたいがとにかく抜け出したかった。親子のキズナよりもっと強いモノを見ながらおさめようとして知ったのは嫉妬だったかもしれません。