漱石が教師をやめて朝日新聞社の社員になった40歳のときに移り住み、49歳で亡くなるまで暮らした場所にあるのが新宿区立漱石山房記念館。漱石生誕150年にあたる2017年に開館した。漱石が暮らした建物は空襲で焼け、戦後都営住宅や区営住宅が建っていたそうだ。
机や棚のみならず、残された写真を参考に洋書漢籍のたぐいまで再現した書斎がある。本はすべて中はシロというが、裏側からみると真っ白ではなくてしっかりと「古書」! しおりがはさんである位置まで再現したらしい。
机や棚など漱石の遺愛品は神奈川近代文学館が、蔵書は漱石文庫として東北大学附属図書館が所蔵している。白磁の火鉢、漱石筆の扁額「移竹楽清陰」、筆洗い用の陶磁器、香炉、肘突き、象牙のペーパーナイフに老眼鏡ケース、オノト万年筆に文箱に「漱石山房」の原稿用紙……。天井が高いのはそもそもアメリカ帰りの医者が建てた家で診察室だったからとのこと、それを借りていたわけで、板の間にペルシャ絨毯をひいて座布団に座り、紫檀の文机で執筆していたと。
書斎手前の客間の壁紙は銀杏と鶴をあしらった模様であった。ベランダ風まわり廊下から南の庭を見ると大きな芭蕉に一面のとくさ、北側には犬や猫や文鳥の墓。
2階で「救い出された文学コレクション ー亘理町・江戸家資料の世界ー」展。宮城県亘理町の豪商江戸家の4代目清吉は明治から昭和にかけての作家や政治家の原稿書簡掛け軸屏風などおよそ2万点をコレクションしていたそうで、蔵で大事に保管していたが東日本大震災で被災。文化財レスキュー活動により救出された資料は亘理町の郷土資料館に保管されている。その中から漱石に関するものを中心に展示。大阪の柳屋から清吉あてのはがきや斎藤茂吉の柳屋あてのはがきもあり、この「柳屋」さんとはどんな古書店だったんだろう。高浜虚子賛、小川千甕画「涅槃集合図」も良かった。
・県立神奈川近代文学館所蔵/
web版夏目漱石デジタル文学館・歴史資料ネットワーク/亘理町立郷土資料館企画展
「江戸清吉コレクション~近代文学・美術作品の宝蔵~」(2016.9.21)
・八木書店グループ/古書通信/
宮城県亘理町と漱石「文鳥」【日本古書通信 編集長だより4】
・朝日新聞/
漱石「文鳥」の原稿、津波被害からの「再発見」(2016.3.11)
・京都文化博物館/
小川千甕(せんよう)展—縦横無尽に生きる(平成27.12.8)