『チェルノブイリ・ハート』(2008 監督:マリアン・デレオ)に続いて上映された『ホワイトホース』は20年ぶりにチェルノブイリ原発から3キロ離れた集合住宅にあった”我が家”を訪ねるマキシム・スルコフさんを追う。爆発のあった1986年4月26日の夜は決して近づかないでと言う両親が寝静まったのをみはからって小学校の仲間と誘い合って燃えあがる原発近くになんだなんだと見にでかける。3日分の食料を持って強制退去を申し渡されたのは翌日。
20年後、映画監督と訪ねた建物は荒れはてて金目のものはなにもない。あるのは両親が寝室に貼ってくれた白馬の写真や懸垂用のポール、ゴムボールなど家族にしかわからぬ宝。なるほど市場外の。
ダイニングのドアに1986年の壁カレンダーがそのままである。マキシムさんがカメラの前で破る。おしなべて寡黙ながら、途中なにか言おうとしてのみこんだあとに発した言葉についた字幕は「これはおそらく僕の運命ではない」。
『チェルノブイリ・ハート』本編でのいちばんは米国医師の惑いの表情。人ひとり夢中の生涯でもなにもわからん、それがなにより希望だわ。台所のこの花の写真を載せたかった、3週間くらいかかったか。