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2009年 01月 19日
奥成達の書評『ボン書店の幻――モダニズム出版社の光と影』(内堀弘)
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「PEN」No.256 2009.1/1.15 p127)Book pen selection 戦前昭和の詩の世界が、身近に懐かしく感じてくる。 『ボン書店の幻――モダニズム出版社の光と影』(内堀弘 ちくま文庫) 詩人・エッセイスト 奥成達
本書を(白地社版で)最初に読んだ読後の衝撃は忘れられない。世の中にはこういう筆者がちゃんといるんだな、という感動と、その熱烈な取材対象となった「ボン書店」の鳥羽茂という人物像への感動が二つない交ぜになってその熱さに圧倒させられてしまった。そしていままた十六年ぶりに再読してそのときのホットな感動がふたたび新鮮によみがえってきた。いきなりだが間違いなくくれは名著である。 北園克衛、春山行夫、山中散生、というような詩人の名をあげられて、すぐにウンとうなずける人は、相当にマニアックな詩のファンである。一九二〇年代の中頃から一九三〇年代初めにかけて、シュルレアリスム、ダダ、などに影響されて詩を書いた、若きモダニズム詩人たちである。 同じ時代の萩原朔太郎や、いまや比べようもない宮澤賢治らのネーム・バリューと並べてみると、彼ら一群のモダニズム詩人の名は、現代詩壇の中にあっても小さく歴史に刻まれた過去の人としか映っていない。 「ボン書店」とは、こうした当時の新鋭詩人たちをひたすら応援しつづけていた小出版社である。それも、たった一人で活字を組み、自分で印刷をして刊行していた、「鳥羽茂」という伝説的な人物による「幻」のような小さな詩書の出版社の名である。 著者の内堀弘氏は、近・現代詩、昭和モダニズム関係に強い古書店と知られた石神井書林の主であるだけに、その幻の出版社の消息をたどる追跡行がまさに執拗で、息づまる推理小説を読むようなスリリングな感動を呼び起こしてくれる。 丹念に、苦労をかさねて、ようやく集められていく資料。そして繰り返されていく膨大な取材の数々。さぞ大変だったろうなとつい思ってしまうが、内堀氏はその作業をいとおし気に、まるで楽しむように、軽快なフットワークで駆けぬけていく。 詳細な資料的裏付けに加え、愛情深く描かれた『ボン書店の幻』は、戦前昭和の詩の世界を語った、歴史的証言になる名著である。
by bookbar5
| 2009-01-19 13:36
| 奥成達資料室
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