靴や、洋服や。どこかへ探しにゆくたびに、お店のひとがみんな若くなります。買うとみなさんていねいに紐を結び直したり皺を伸ばしたりセロハン袋に入れたりしようとするので、このあとすぐ着替えますから簡単にしてねと言います。タグもみんな切ってもらったほうがありがたい、ただわたしがお店のひとになるならば、やっぱり包んで渡したくなるだろな。
清算を終えて袋を受け取ろうとすると、出口までお店のひとがついてきてくれるようになったのはいつごろからだろう。このまえもテナントの店のひとが通路ぎりぎりまで見送ってくれて、布袋に入れた服を差し出して言う、「またお店に遊びに来てください」。さわやかでかわいくて、「ありがとう」と言うのが精いっぱい。もっといろいろ見たかったのだが目の前の下りのエスカレーターにそのままのって、左右の鏡をながめつつ、ほんとうにただ遊びに行った場面を想像して可笑しい。
さてお店のひと。すごいひとがいつでもいます。ある駅ビルの上階に、郵便局もあり食堂もあり、フリースペースもありの便利な場所があって、移動までの時間をみて蕎麦屋に入ります。のれんをくぐると「いらっしゃいませ、おひとりですか?」と男のひと。奥の席に誘導してくれ、「こちらにコートを、そちらに荷物を」。大テーブルの一番奥の席をひとつあけ、二つめの椅子をひく。瞬時に客のいでたちとニモツをながめ、時間をよんで席を分配、そのあとも、やたらのどが乾いて水を何度も飲み干したのだが次を催促することも、もちろんオーダーのときだって、一度も手をあげることなく気づくとその人が傍らに居た。なんか、すごいなこの人。どこかで会っている気がする。まだはっきり思い出せないけれど、飯倉交差点ノアビル地下にあった石亭→サザレの麻布台クラブではなかったか。
昨日、まだ開店数ヶ月の蕎麦屋に行って、ここはうまいぞと思っていたのだが、席の案内、動線誘導、あげさげのタイミングにすっかり冷めてしまったのだった。うまいのになあ、うまくたってだめなんだ、それで思い出した話です。ちなみにその駅ビルのうえにある蕎麦屋の蕎麦は、格別うまくはないのです。