『ドンバス』セルゲイ・ロズニツァ監督
音が大きく感じた。車や戦車、爆撃、銃声もそうだけど、怒る泣く叫ぶ笑う歌う人の声の異様なでかさ。”13のレッスン”はすべて実話がもとになっているそうだが、誰かがマイクやカメラやペンでさらった話を今度はスクリーンを前に自分の脳のマイクだかカメラでさらっていてもはや自分のこの口は何を「実話だ」と言うのだろう。悲劇と喜劇が延々交互にあらわれてくる。今このときは悲劇の番か喜劇の番か。最後は鳥の声、オオヨシキリみたいなちょっとがさつなやつ。なんの鳥? 地上の人々にはきっと聞こえない鳴き声。
映画『ロシアン・スナイパー』では花が随所に差し込まれていたな。これもきっと地上ではほとんど人の目に触れないやつ。
映画『サンストローク ロマノフ王朝の滅亡』では折り紙の鳥が飛んでいた。白軍将校たちが「なぜこうなった?」を繰り返しながら手持ち無沙汰に雑誌をやぶって正方形に切って折ったやつ。よく飛んでいた。鶴のようであったがわれわれが折るのとは違ったタイプの。
アレクシエーヴィチの『戦争は女の顔をしていない』には渡り鳥や鶴の群れを仰ぎ見た回想もいくつかあった。最後の伍長さんの話は鳥で終わっていた。
スターリングラードでのこと……一番恐ろしい戦いだった。ねえ、あんた、一つは憎しみのための心、もう一つは愛情のための心ってことはありえないんだよ。人間には心が一つしかない、自分の心をどうやって救うかって、いつもそのことを考えてきたよ。
戦後何年もたって空を見るのが怖かった。耕した土を見るのもだめ。でもその上をミヤマガラスたちは平気で歩いていたっけ。小鳥たちはさっさと戦争を忘れたんだね……
アレクシエーヴィチ『戦争は女の顔をしていない』 「ふと、生きていたいと熱烈に思った」タマーラ・ステバノヴナ・ウムニャギナ 赤軍伍長(衛生指導員)より
『ドンバス』帰りに近くの花屋でひまわり。店の人が「これ、ゴッホのひまわりです」とにっこり手渡してくれたが、いっぱいいっぱいで何も言葉が返せなかった。いまさらですけどもしやそれは品種名?
・UKRAЇNER/ベッサラビア地方/
トゥズリ潟湖 〜イルカと野鳥とボランティア達の話〜(2021.7.18)